ABWという職場環境は、新たな可能性が広がる魅力的なグラウンドです。この空間は、皆が安全に快適に過ごし、企業としての成果を上げていく場所です。
さて、何事も最初からうまく行くとは限りません。ABW導入後、慣れるまでに時間がかかる、または順調な滑り出しであっても時間の経過とともに運営上の課題が出てくる、というような事態も想定しましょう。
自社に合ったよりよいABW運用とは、試行錯誤する中で改善を重ねながら形成されていくものです。そこで、中長期的な視野とメンテナンスが、定着と成功のための重要なポイントです。
さて今回はABW導入直後に陥りやすい状況を例示し、「ロールモデル」と「セルフマネジメント」の2つのキーワードを軸に、有効な解決策をご紹介します。
もちろん、施設設備まで整えて導入するABWですから、少しでもよいスタートを切りたいものです。これからABWを導入するのであれば、ぜひ準備の段階から対策を立てておくことも併せてお勧めします。
ABW導入直後の様子を想像してみよう
新しい職場環境で新たな働き方を身につけるには、新しいスキルを得るのと同等の労力が求められます。今までと違うワークスタイルの環境に置かれたときに、人は何を感じるか想像してみましょう。モチベーションが上がり、積極的に仕事に向き合いたいという気持ちが溢れるでしょうか。それとも、そわそわして落ち着かず、戸惑うでしょうか。ABWに対して事前に説明を重ねて全員で前向きにスタートを切ったとしても、後者のような従業員の反応があり、予期せぬ停滞感が生じることもあるでしょう。
頭で考えるのと、実際やってみるのとでは大違いです。ABWスタート直後、思うようにうまく波に乗れない状況があっても、すぐに失敗とは決めつけないでください。
キーワード1 ロールモデル(ABW推進リーダー)
ABWにおけるロールモデル(考え方や行動のお手本となる人物)が身近にいれば、新しい働き方に戸惑う従業員はもちろんのこと、従業員全体の背中を自然に押しながら、包括的なフォローをすることが可能です。
従業員はロールモデルを目で追いながら、「ああ、こういう時はこうすればよいのか」と気がつき、「次はあの人を真似してやってみよう。そうすればもっとうまくできそうだ」と、自ら積極的に動くことができます。従業員自身がまず自分なりに考えて試行錯誤し、改善までできるのであれば、ますますエンゲージメント(従業員が組織の目的や価値観に共感し、自発的に貢献しようとする心理的な状態)が向上し、ABWの効果を深く実感できるようになります。
経営層のリーダーシップを最大限に活かす
ABW導入後の停滞感への対策として、「経営層がABWを自ら実践する姿」を積極的に発信してみることをお勧めします。特に中小企業においては経営者の発言・行動の影響が大きいため、経営者自らが推進リーダーとなることが理想的です。影響力のある経営層が率先して行動を変えることで全体の空気が変わることが期待できます。
推進リーダーは、経験や知識が豊富なABWの専門家である必要はありません。
1.ABWを導入した目的や意義を理解したうえで、従業員にこれを説明できること
2.従業員の意見を聞いたうえで、必要に応じて説得ができること
3.従業員の意見、また自ら感じた課題について対策を講じ、定期的に改善していけること
が、重要です 。
経営者以外を推進リーダーとする場合は、旗振り役としての担当者を任命しましょう。その場合は、従業員の意見、また自ら感じた課題を整理して経営者に相談し、改善に向けた連携ができる人物を選定します。コミュニケーションスキル、特に傾聴力が高い人が適しているといえます。
ここで気を付けなければいけないことは、経営者がABWをすべて担当者任せにしないことです。全体の経営にかかわることなので、経営者が責任感を持って、定着に至るまで二人三脚で担当者と推進していく姿勢が必要です。
なお、担当者が変更になる場合は引継ぎをしっかり行い、ABW導入の目的や意義だけでなく、リーダーの役割を後任に伝えるようにしましょう。
経営者は「長い目で広い視野で」定期的なヒアリングを

人の個性は十人十色で、新しい働き方に対する反応も個人差があります。最初はスムーズに順応できていた従業員も、少ししてから課題に直面する場合もあります。即順応・即反応を求めすぎず、定期的な声かけをしながら、じっくりと全体を見守ることが重要です。
働き方が変わり何かに困っている人こそ、大切な気付きを得ている可能性もあります。定期的な声かけをして、ぜひ個々人の意見に耳を傾けてみましょう。次項では、主に管理職への接し方についてお伝えします。
管理職への接し方
まず、慣れない業務管理への不安から、上司が部下に対して過度な干渉をしてしまうケースがあります。例えば、必要以上に頻繁な報告を求める、出社を要求するなどです。最初からあれはダメ、これもダメ、ああしなさい、こうしなさいという言動は、部下に過剰なストレスを与えかねません。そのような兆候が見られたら、状況の確認をしたうえで、 ヒアリングの際に今はまだ皆が不慣れである現状を伝え、まず部下を信頼して様子を見ることを促してみましょう。
また、たとえば実際に勤怠管理に課題があり、業務に支障が出ているケースもあるでしょう。従来の管理方法が通用しなくなっているならば、実情に合った適切な勤怠管理システムの導入が効果的です。これにより、管理職が抱える心理的な負担を軽くすることができます。
キーワード2 セルフマネジメント(自己管理)
ABWという働き方では、いつ、誰とどこでどんな仕事をするか、自分の働き方を自ら考え、実行し、管理する能力(セルフマネジメントスキル)が必要不可欠です。しかし一朝一夕に身につくものでもないため、サポートを必要とする従業員がいるかもしれません。
・自由に場所を選べることで、リラックスしすぎて集中力が散漫になり、業務効率が上がらない
・報告や連絡が不足して、業務の進捗や勤務状況が把握しづらい
・従来の意識が抜けず、いつも同じ席を選んでしまう等、気持ちの切り替えが難しい
などの課題があれば、該当の従業員に対してヒアリングを行い、フォローアップをしましょう。
直属の上司だけでなく、ABW導入後のメンテナンスの一つとして、推進リーダーがヒアリングを実施するのも良いです。セルフマネジメントスキル向上の働きかけは、基礎的な社員教育になります。
次項以降では、主に従業員への接し方についてお伝えします。
従業員への接し方
1. ABWが個人優先の働き方になっていませんか
前提として、ABWとは個人が優先される働き方ではありません。仕事よりも個人を優先して勤務時間を自由気ままに過ごした結果、パフォーマンスが下がることがあってはいけません。部下も、自分が信頼されるに足る行動をとること、つまり自制が必要です。自由と奔放は違うということを忘れてはいけません。勤務時間中、上司が安心して見守れるようなセルフマネジメントが働いていることが、基本中の基本です。
まずは従業員の声に耳を傾け、状況を確認してみましょう。そのうえで適宜、改善策や対応策を一緒に一つ一つ考えていくと良いでしょう。丁寧にヒアリングしたうえで、ABWの前提について理解が深まるよう、勤務時間中は出社時と同様に、上司が安心して見守れるような勤務態度でいることが基本であること、また、そのためにはどのように行動すればよいかを必要に応じて繰り返し伝えましょう。
場合によっては、セルフマネジメントによって、時間や場所にとらわれず、確実な成果を上げている従業員を評価できるような評価制度の整備を検討することも有効です。
2.セルフマネジメントの阻害要因「同調圧力」には注意が必要です
従業員の勤務状況が良好であっても 、日本人が特に弱いといわれる「同調圧力」は、重大なセルフマネジメントの阻害要因となり得るため、要注意です。
「所属チームのメンバーは出社が多い。在宅のほうが集中できてはかどるが、自分も出社メインにしよう」
「新オフィスは自宅よりも働きやすく、毎日でも出社したい。でも一人だけ目立ちたくないから、やめておこう」
など、必要以上に周囲と足並みをそろえようとする心理に、心当たりはありませんか?
もちろん、相手の状況や気持ちを汲み取り、お互い気持ちの良い職場環境を築くための努力は必要です。職場における一体感は、エンゲージメントの向上にも役立ちます。
しかし「仕事の内容に合わせて、働く時間や場所を従業員自身が自律的に選ぶ」というABWの本質を見失ってはいけません。仕事の内容よりも周囲に合わせることを優先した結果、モチベーションやパフォーマンスに悪影響が出るのであれば、改善が必要です。まず、仕事の内容が優先です。ABWが定着するまでは、ABWの目的、意義を繰り返し伝え、従業員一人一人が適切な優先順位に基づいて、自ら考え、行動できるようになるように、根気強くヒアリングとサポートを継続することが大切です。
今後のコンテンツ配信について
今後も「お役立ち情報」として、この場でコラムを掲載します。 どうぞご期待ください。